種牡馬と乗馬の紙一重

秋の深まりとともに名馬がまたターフを去ってゆく。
ドリームパスポート(牡5、美浦・稲葉隆)が左前浅屈腱炎を発症し、
JRAの競走馬登録を抹消。今後は北海道恵庭のすずらん乗馬クラブで乗馬となる予定。
通算22戦3勝。重賞は06年のきさらぎ賞GIII神戸新聞杯GII
運のない馬だったとしかいいようがない。06年の皐月賞菊花賞ジャパンCと2着。
このうちひとつでもGIを制していたなら種牡馬の道が開けたであろう。
昨年の有馬記念ではオーナーと厩舎の確執から美浦に転厩。
鞍上を替えて心機一転したが、結果はついてこなかった。


一方、同じ日に引退発表のあったチャクラ(牡8、栗東・安達昭)は、
日生牧場で種牡馬になる予定だという。通算成績48戦4勝(うち障害8戦1勝)。
重賞は03年のステイヤーズS・GIIと04年の目黒記念GII
もちろん血統背景やオーナーの意向もあっただろうか、
最近は障害競走ばかり走っていたし、種牡馬になれること自体驚いた。


もちろん馬にとって種牡馬が必ずしも幸せとは限らない。
走る仔が生まれなかったり、繁殖牝馬が集まらなければすぐに廃用にされてしまう。
「乗馬=去勢」というイメージがあるので、可哀想と思うと同時に、
乗馬によって第二の余生が送れるという幸せもあろう。
もちろん乗馬すべてが去勢されているわけではないが。
まぁ人間の感覚で「種牡馬=ハーレム」と考えるのは見当違いである。
オーナーからみれば繁殖の集まらない種馬を何年も置いておけないだろうし、
産駒のデビューを待たずして消えてしまう種牡馬も多い。
結局のところ、年に数頭。しかも質の悪い繁殖牝馬をつけたところで、
奇跡の馬を出すことなどは確率的に低いのである。


馬で楽しむ自分にとってはまったくもって身勝手だが、馬に生まれなくてよかったと思う。
しょせんサラブレッドなど人間の生産した消耗品として扱われるからだ。
僕が馬だったらもう高齢馬の域に達しており、
GIを制覇していないので、乗馬にされてキン○マをとられるか、
肉屋に売られておしまいであろう。馬には「個」なんて尊重されないからだ。
GIを制していないと書いたが、実はGIは制している。
95年の小島貞博騎手のインタビュー取材。
ここで僕は貞やんに「小島さんを描くことは僕にとってのダービーです」と迷言をはき、
貞やんを当惑せてしまったからだ。あれから13年。あの『競馬フォーラム』も今はない。
競馬の仕事も需要がなくなり、関係者とも年賀状のやりとり以外は疎遠になってしまった。
書きたいという創作意欲は薄れ、加算賞金もすべて餌代(生活費)に消えている。
現在の僕は地方に流れて、自分の生活費を稼ぐだけの地方馬であろう。
本当に郡上八幡に流れられれば、それはそれで幸せなのですが……。


【人気blogランキングへ】