越美線未成線の旅⑥(九頭竜湖駅→家族旅行村→下在所/15.6㎞)

路線バスをはさんで県境を徒歩で移動

 大野市営バスは100円也。家族旅行村まで約15分だが、乗車は僕独りのみで空気輸送阻止だった。途中には天狗岩パークや福井和泉スキー場もあるのだが、バスで利用する人はほとんどいない。運転士も旅人の乗車に驚いたことであろう。なんでも昔は28人乗りの大型バスだったとか。ここから石徹白の下在所まで歩くツアー客というのは明らかで、すでにこういう旅行者を数名運んでいたようだ。

終点の家族旅行村と予め用意しておいた熊除け鈴

 バス終点の家族旅行村15時35分到着。一応ここから白鳥交通デマンドバス石徹白線の下在所までの県道127号白山中居神社朝日線はクルマで下調べ済。しかし、この区間は国道で土砂崩れも多く、石が道に転がっていることもしばしで、運転してもらったI氏は「もう走りたくない」とこぼしていたほど。

 白鳥交通デマンドバス石徹白線下在所の白鳥庁舎行は18時36分発だから3時間で約8.1㎞を歩く計算となる。だいたい1時間で4㎞の行程とみればなんとか走破できるであろう。あとは家族旅行村の標高が534mに対し下在所が661mなので、100m以上の上り勾配となる。独り歩きのため熊除け鈴も装備した。

通行規制の看板と石徹白川

 さぁここからが最後の難関である。あまりのんびりしてられないので営業がすでに終わっている家族旅行村のキャンプ場の少しだけみて出発する。途中には通行注意の看板があり、連続雨量が120mmで通行止めになるという。こういった酷道の背景から福井県に所属した石徹白村が、昭和33年(1958)に白鳥町へ越県合併した経緯がある。もし、この区間に越美線が開通していれば石徹白は福井県のままでいたのかもしれない。

三面の地名とアンテナが立たないスマホ

 県道127号は石徹白川を遡りながらすでに旧石徹白村に入っている。現在は大野市になっているが、三面(さつら)、小谷堂(こたんどう)地区は元は石徹白村だった。石徹白村の大半が岐阜県の白鳥町に編入された際、両地区は和泉村編入されている。だが、昭和41年(1966)九頭竜ダムの建設の際、水没しないものの集団離村により集落は消滅した。道はアップダウンを繰り返しながらも徐々に登っており、石徹白川に合流する小さな渓流を見ながら進む。三面地区ではすでにドコモのアンテナが反応しなくなっていた。小屋の谷橋を渡った先に「田舎暮らしの土地」分譲地があった。旗は郡上市になっているが、土地はまだ福井県大野市である。いったいこの土地は買ってどのように活用するのだろうか? 

石徹白ダム

 立派な石徹白ダムを過ぎ小谷堂地区に入った。ここには事前調査で「小谷堂守護本尊堂跡」の碑があることがわかっていたが、見つからず通り過ぎてしまった。少し探してみたがバス時刻も気になるのであまり寄り道もできず諦めた。この1年後の令和4年(2022)9月、当地出身の方と郡上市在住の絵馬師・岩田義一さんが手作り地蔵堂を建立して中日新聞の記事になった。

落石注意と路肩注意の看板
湧水で洗い越し状態の道と小谷堂測水所

 途中で「落石注意」の看板があり、地蔵様や石徹白川に注ぐ滝を見ながら進む。通行するクルマもほとんどない。川沿いの路肩にもガードレールがないので、夜道などは大変危険。「路肩注意」の看板もあった。山から湧水が流れ、洗い越しの状態になっている箇所もみられる。俵谷川の堰堤を過ぎ、轢かれた蛇を発見。車の通行がこれほど少ないのに轢かれるのは何という不運なことか。小谷堂測水所を過ぎ、もうかれこれ1時間以上歩くも、なかなか県境へ着かない。

県境を示す漁業管轄の看板と滝

 心配ながら歩き進むとようやく県境にさしかかった。「これより下流奥越漁業協同組合」の看板があって石徹白漁業組合との漁業権で県境が分かるのだ。ちょうどこの県境に大きな滝も落ちている。

県道唯一のトンネルと入口に祀られる地蔵様

 

 岐阜県に入ったことでゴールが見えてきた。このあと鬼神橋とこみぞ橋を渡り、石徹白川に注ぐ滝を見ながら進む。以前にも通った唯一の短いトンネルがあり、入口には地蔵様も祀られている。

釣り人ばかりか生きたマムシにも遭遇

 ここでようやく釣り人にも遭遇した。15cm以下の魚を採捕する罰せられるという看板もある。名もなき滝を見ながら進んでいると最後のハプニングがあった。先ほどのように轢かれた蛇が道の真ん中にいると思いきや生きた蛇であった。しかも模様からみて明らかに毒をもつマムシである。あまり近づくと危険なので遠巻きに写真をとって刺激しないよう通過した。

石徹白集落と『民宿おさむ』。バスに乗り遅れたらお世話になったかも?

 最後に石徹白橋を渡り、ようやく集落が見えてきた。小屋谷川の白子橋を渡り、鱒の養殖場をみて扇川に架かる前川橋を渡り、ロックフィールドいとしろのキャンプ場を経て『民宿おさむ』を過ぎ、上前川橋を渡ってようやく下在所のバス停にたどり着いた。17時45分だから2時間10分ほどで、ここまでにすれ違ったクルマは岐阜方面からすれ違った9台、福井方面から抜かれた2台の計11台に過ぎなかった。クルマで対向車が来たら、場所によってはすれ違いもかなり大変なことであっただろう。
 バスには余裕で間に合ったが、遠距離を歩くのは久々過ぎてもう脚が痛くて停留所の待合室で座って休んでいたら、地元の老婆が声をかけてくれた。福井から歩いてきた旨を伝えると当然の如く驚いていた。停留所の前には石徹白洋品店があって除草用のヤギも飼われている。すでに秋の深まりをみせていたので陽も落ちて暗くなったが、当初の計画の18時36分の白鳥庁舎行を待つより、先に来る18時19分の上在所行きバスに乗って折り返すことにした(つづく)