藤田伸二の『騎手の一分』を読んで

shugoro2013-06-19

先日、モリーに勧められてAmazonで注文したのが
JRA騎手の藤田伸二が著した
冒頭写真『騎手の一分―競馬界の真実』(講談社現代新書である。
現在、すごく評判になっている本とかで、本日届いたのでさっと一読してみた。
これはあくまで競馬関係や出版業界に身を置いた僕個人の感想であるのでご了承いただきたい。
最初に云っておくが藤田伸二は言動や行動に多少の問題があるとはいえ好きな騎手である。
何せ騎乗ではいつもフェアプレーを心がけ、フェアプレー賞を15回も受賞しているばかりか、
騎乗停止もほとんどない。ここまで模範的な騎手はいないだろう。
ちょうど僕が『競馬フォーラム』の雑誌記者をやっている頃は、
まだ新人でインタビューで取り上げる機会はなかったが、
この頃からカメラマンにポーズをとるのも嫌いな騎手だったと聞いたことがある。
エリザベス女王杯ではタケノベルベットで波乱を起こし、
京都新聞杯のスターマンでナリタブライアンを負かしたときは感動したものだ。


それでは本書の感想に入ろう。
まず版元が仕掛けたのであろうが、帯の武豊の推薦文
「ヤンチャなシンジらしい、おもしろい本やね」
いつものタッチの藤田の著とは違うし、中身を読んでいないことがわかる
装丁やタイトルからがっかりさせられた
中身はJRAへの批判で、むしろ現在の競馬界に警鐘を鳴らしており、
藤田にしてみれば引退の覚悟がとれるいたって辛辣なものである。
にしても今回は編集サイドの意向であろうか、
初心者にも読んでもらいたいためか注釈がやたら多い
内容は「エージェント制」「外人騎手偏重」「大手クラブの台頭」など
最近の傾向を非難しつつも「すべてが悪いわけではない」とフォローを入れているが、
結論はすべてJRAが悪いと責任転嫁しているところがうんざりさせられる。
また、最近活躍する岩田や福永の騎乗法を非難しており、
とくに岩田の騎乗法を認めておらず、それを真似る蛯名まで非難している。
それはあくまで藤田のポリシーであることはたしかだが、
むしろこの部分は貪欲に岩田の騎乗法を追究する蛯名のほうが好感がもてた。
藤田に至っては「もうやることがない」「やっててつまらない」「勝ちたいレースはない」
引退をほのめかしている言葉がところどころに見られ、
もう競馬に対するモチベーションがないことがうかがえるからだ。
藤田が当時師と仰いだ田原もまた同じようなジレンマに陥り、
末路は奇行を繰り返した挙句、違法な薬物に逃避してしまった。
最近は藤田をあまり見なくなったと思えば、
昨年は31勝で1991年から続いていた重賞制覇もついに途切れてしまった。
2002〜2007年と2009年は年間100勝以上達成していたし、
成績が59勝まで落ち込んだ2011年でもGI4勝していたので、
やはり居場所がなくなってしまったんだろうと思う。
ならばせめてこの本は2年前に出すべきだったであろう。
現在の成績で刊行しても、単なる愚痴や遠吠えと思ってしまう読者もいるからだ。
そういえば「競馬がつまらなくなった」と云って後藤由之師が勇退したのも2年前の話。
武豊が勝てなくなった理由にある有力馬主との確執を書いているが、
その有力馬主も最近はめっきりGIから縁遠くなっている。
これだけではあまりにも説得力に欠ける。
騎手の減少は上下格差ももちろんあるであろうが、それだけが理由であろうか?
地方競馬が次々と廃止されればJRAの受け皿がなくなり、
サラブレッドの生産頭数も減るし、そのぶん競馬もどんどんつまらなくなり売上も下がる。
じゃあどうしたらいいのかという具体的な方策が見えて来ない。
同時に中古で購入した同著の『競馬番長のぶっちゃけ話』(宝島社)のほうが、
知られざる騎手の生活内部やプライベートのことが書かれていてずっとおもしろかったし、
ここでも塚田騎手の落馬負傷のとき、すぐに病院に搬送しなかった
JRA職員の対応を非難しており、
むしろこちらのほうがJRAに対する批判を真摯に受け止められる。
また、同じく落馬で引退を余儀なくされた石山繁騎手の夫人衣織さんを説得して
落馬脳挫傷-破壊された脳との闘いの記録』(エンターブレイン
刊行プロデュースするなど藤田伸二の功績は多大なものがある。
ゆえに今回の本のほうが拍子抜けしてしまった感は否めないのだ。


もちろん僕は藤田伸二ほど偉大な成績を残したわけでもない凡人である。
ただ、周囲に媚びない藤田伸二の生き方に共感している部分もあったし、
現在の自分のフィールドがやはり裁量権を奪われて
つまらない業界になってしまったと思う共通する部分がある。
今回の藤田伸二の新刊には、版元の意向もあっただろうが、
本を売りたいための構成や仕掛けが余計嫌悪感に陥ってしまった次第である。


本日の木之前葵ちゃん
1Rユアムーブ7着シンガリ(6番人気)
5Rサンキウニシキ8着(9番人気)
6Rエクスペクト10着シンガリ(7番人気)
8Rイルマーレ10着シンガリ(9番人気)
9Rニシキオンファイア3着(8番人気)
10Rウィングヴェール6着(5番人気)


7勝目はおあずけで、シンガリ3回という馬場掃除もあったが、
本日の葵ちゃんは頑張った。いや本当惚れ直した
9RのJRA交流競走、これはいつもの減量特典はない定量戦。
しかもJRA勢の圧倒的人気なレースで、
ニシキオンファイアも8番人気という低評価。
レースも終始10頭9番手というブービーの位置取りであったが、
直線だけで目の覚めるような追い込みをみせ、
3着に食い込んで複勝2650円もつけた。
三連複、三連単万馬券だっただけに獲り損ねを悔やんだ。
10Rは葵ちゃんの馬から三連単を買ってはずしたが、
名古屋競馬では久々にプラス収支となった。
ほとんど有力馬が回ってこず勝負にならない馬ばかりであるものの、
葵ちゃんはレースである以上諦めず、1・2着はJRA勢だったものの、
クビ差の3着で地方馬最先着を果たしたのだ。
「馬にいつも教えてもらっている」と初心で挑んだ葵ちゃん。
名古屋競馬も廃止が噂され、周囲にも半ば諦めムードが漂っているような状況であるが、
ぜひ名古屋競馬場を訪れ、葵ちゃんの勇姿を見てほしい。
「最後まで諦めないで」というメッセージが読み取れよう。
カスP氏も先日書いたが、時代は木之前葵伊藤工真
強い馬に乗る機会が少なくても、どんなレースでも勝負する気迫がある。
藤田伸二もぜひ競馬界を辞めると云わず、
地方に移籍して競馬界の改革を訴えてほしいものである。


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